松田優作と「探偵物語」

私は俳優、松田優作さんのファンです。

ご長男の龍平さんの方が私とずっと歳が近く、優作さんはすっかり親世代の俳優さんなので、亡くなられた時の報道の大きさで初めて存在を知った方ですが、40歳直前での死という若さからは想像できないほど、圧倒的な個性と深い内面を抱えている印象を子供心に受け、knock outされたような痺れを感じたのを覚えています。

 

松田優作と言えば、アクションや怪演と言われる個性的な点で、今なお多くのファンがいらっしゃると思います。

没後に公開された米映画「ブラック・レイン」は、いつかその雄姿を拝みたいと思いつつ、強烈な痛みを感じたり、過激なアクションシーンがどうしても苦手な私は未だに鑑賞に至りません。これでファンを自称するのは怒られそうな気もしますが、私が本格的に松田優作を好きになったのは、テレビシリーズの「探偵物語」から。

コミカルで手足の長い工藤ちゃんにはまり、夕方の再放送時は録画しているのに、大学の講義を休むこともしばしばでした。当時の私には中毒性が十分な不思議なドラマで、松田優作の魅力に満ちた作品でした。

 

映画「探偵物語」を初めて鑑賞したのは、それから少し経ってから。

松田優作のキャスティングとドラマシリーズと全く同じタイトルのため、工藤探偵事務所の続編を期待して見たところ、工藤ちゃんとは全く別人の、これといった際立った特徴も見当たらない別の探偵を演じているのを見て、がっかり&憤慨(笑)したことを覚えています。

それから私の中では映画「探偵物語」は松田優作の出演作の中では、気の迷い?から出演し、本人も力を削いでいる角川映画という勝手な思い込みがありましたが、先日すっかり秋になり、映画や読書三昧の中で改めて鑑賞する機会があり、その思い込みが100%覆されました。

おそらく、私にとってはほとんど初めて自然に感じられる、松田優作の違った魅力がたくさん詰まっている映画でした。完全に<静>の部分の松田優作と言うか。

あの映画の中の松田優作は、他では見られないような優しさと穏やかさを抱え、静かに佇んでいます。彼のアクションや、驚異的な、男性的な個性を求めて見ると肩透かしを食らう作品には違いないかもしれませんが、限られた出演作品の中では唯一と言えるほど、その優しい一面、肩の力が自然に抜けていることを感じられる作品で、今更ながら嬉しくなりました。改めて見て良かった。

 

素敵な名前だな、優しく作られて、「優作」。

最初にその名前を見た時に思った感想がそれでしたが、名前の印象とは裏腹に強いイメージを感じられる作品や役どころが多い印象です。もちろんそういった面も多々ある方と思う反面、真の、心の部分では、優しさや静の部分がとても多かった方ではないかと色々なエピソードを辿ると思います。その両極端の性格、多面性、そして複雑性が、多くの人を未だに惹きつけてやまない魅力と言えるのかもしれません。

 

亡くなられて数年後に見た特集で、30代のある時期から般若心経を唱えるようになり、ご自身の死の直前には、病を克服した後、これまでの自分をすべて刷新して、まったく別のことを始めたい、なぜなら私たちが存在している宇宙は無限の可能性に満ちているのだから、と主治医の先生に説いていたと伝えていました。私の中の松田優作さんという方は、その印象がとてもとても強いです。

 

静があるから動があり、苦しみがあるから喜びが感じられる、森羅万象のすべてが大きく見た時に陰陽の2つで成っているとして、私たちひとりひとりもそのように成っていることは日々思います。

松田優作という稀有な俳優さんの、限りなく優しく、穏やかな一面を、もっと多くの作品で見ることができたら良かったなあ、と、映画「探偵物語」鑑賞し、思い至りました。

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早世されたことは改めて残念です。60代、70代の松田優作さんはどんな俳優になっていたんだろう、いや、あの個性と時代、立ち位置からして、あの時代にエネルギーを爆発させて生きるから意味があった人なのではないだろうか、等と、あれこれ生意気に思いを巡らせていました。

 

私も写経を続けたり、お経を声に出して読む、ということを少しずつ習慣にしてみたら、死への恐怖感、畏怖の感情はすっと消えていくような思いになります。

<今>ここにいることに100%集中して、やることに向き合いつつ(小さい宇宙への集中)、身体の外の、途方もなく広い空間へ思いを広げていく(大きな宇宙へのアクセス)、その流れに身をゆだねるアクセスポイントが、数多あるお経(マントラ、祈りの力・・なんでも自分にしっくりくるもの)なのかなと。インナーとアウターへの行き来はinfinity(∞)を私に思い起こさせます。

苦しいとか、怒りとか、やりきれない思いがどんなにあっても、それらは平穏で、穏やかな思いにもつながるような、そんなイメージです。すべては行き来して、繋がっている。

松田優作さんの話からここに纏めるとは自分でもびっくりしました(笑)